アメリカはフィラデルフィアに住む“りんたろう”のブログ


by ring_taro
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チャイコフスキー  フランチェスカ・ダ・リミニ

参考CD ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団(EMI)

苦難の時に幸せな日々を思い出すことほどつらいことはありません。
あなたの師はおわかりになるでしょう。しかしあなたが私たちの愛の始まりを知りたいと強く望むのであれば、私は涙を流しそして語りましょう。
ある日、私たちはランスロットの物語を読みながら楽しい時を過ごしていました。彼がいかに愛の虜となったかの物語をです。
私たちは二人きりでした。なにもやましい思いなどありませんでした。
読み進めるうちに何度か私たちの目があい、血の気がひくのがわかりました。
しかし私たちを打ち負かしたのはたった一度、ほんの一度のことだったのです。
それは愛する人の口づけを待ち焦がれる微笑みのくだりを読んだとき。
この人は、そう、二度と別つことなどできないこの人は私の震える唇に口づけました。
ガレオットがその書であり、それを書いた人だったのです。
その日はもうそれ以上読み進みませんでした。

この話を語っているあいだ、もう一つの魂はずっと涙を流していた。
私はあまりの哀れさに気を失ってしまった。死んでしまったかのように崩れ落ちてしまった。
    (ダンテ『神曲』より)

この一説はチャイコフスキーが『フランチェスカ・ダ・リミニ』のスコアに記したものです(注)。フランチェスカとその義弟パオロはその密会を夫であり兄であるジャンチオットに見つかり殺され、地獄に堕ちます。そこで二人は吹き荒ぶ嵐のなかを永劫飛ばされ続けるという罰を受けます。地獄を旅するダンテは嵐のなかを寄り添うように飛んでいる二人に興味をおぼえ、フランチェスカからその事情を聞いてあまりの哀れさに気を失うというお話です。

この曲は大雑把にいうと序奏+ABAという形式です。
重苦しい序奏の後、地獄の嵐のパート(A)、クラリネットのカデンツ的なソロに導かれたフランチェスカの語る愛のパート(B)、そして嵐のなかに戻るフランチェスカとパオロと気を失うダンテを描いたパート(A)です。
彼がもう少し若い頃に作曲した『ロミオとジュリエット』に比べて今ひとつマイナーなのは、この衝撃的かつ悲劇的なエンディングのせいでしょうか。それとも題材が『ロメジュリ』の方がポピュラーだからでしょうか。中間部の愛の旋律の甘美な魅力は甲乙つけがたいものがあるのですが。

おすすめのCDは1991年録音のリッカルド・ムーティ指揮、フィラデルフィア管弦楽団のものです。嵐の部分のタイトなビートと緊張感、中間部の甘くそれでいて厳しいカンタービレ、まさにムーティのためのような曲です。フィラデルフィア管弦楽団は金管の能天気な軽さがちょっと気になりますが、弦の美しさに心を奪われます。

ちなみにムーティ/フィラデルフィア管には、こちらも「愛」と「地獄」を描ききったベルリオーズの『幻想交響曲』の録音もあります。あわせてお聴きになったらいかがでしょうか。

その他の録音ではムラヴィンスキー/レニングラード・フィルがいいです。録音だけでなくライブのDVDもでていて、これがとても面白いです。晩年のムラヴィンスキーの指揮は(チャイコフスキーの五番やショスタコーヴィチの五番などでは特に)もうほとんど指揮とはよべないような両手をなんだかひょろひょろしてる感じのものなのですが(まあ、そのちょっとした指のニュアンスからオケの音がグワーッと変化したりするのがたまらなく好きなのですが)、『フランチェスカ・ダ・リミニ』はさすがにやる機会が少ないのか比較的しっかりとした指揮ぶりです。なんだ、ちゃんと指揮できるんじゃん。

フィラデルフィア管の豊かな響きに比べ、よりストイックで険しい音楽となっています。フランチェスカとパオロの苦行を体感したいのならこちらかな。まあ冗談はさておき、クラリネット・ソロの独特な音色の魅力はちょっと他の演奏では聴けないものです。

余談になりますが、ロセッティに『パオロとフランチェスカ』という絵があります。中央部のダンテとヴェルギリウスを挟み、左には本を膝に口づけをかわす姿が、右には寄り添うように地獄をさまよう姿が描かれています。ものすごく素敵な絵ですし、機会があったらご覧になってください。曲により愛着がわくはずです。そういえばウィリアム・ブレイクにも同じ題材の版画があったな。確か気を失うダンテとつむじ風のなかに戻っていく二人が描かれていたはずです。


※注 上記の引用は私が英訳を自由に和訳したものです。そういった事情に加えて私の英語力と文学的センスにはかなり問題があるので、興味がある方はぜひ原典や出版された和訳をあたってください。
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by ring_taro | 2006-09-20 17:10 | クラシックの曲紹介